第8回この頃のサンディー。3月取材こぼれ話編
4、5月は対面取材が困難だったので、今回は3月の取材からのこぼれ話を中心にお届けします。
しかし、ただの番外編とあなどるなかれ!
ある意味では普段の取材より興味深いサンディー・ワールドが花開いています!…かな?といったところで今回もお楽しみください!
3月、コロナの季節に
- ——
- なんか大変なことになっちゃいましたね…。
- Sandii
- そうですねえ。コロ太郎(サンディー語で新型コロナ・ウィルスのこと)が大人しくしてくれないと、うちの学校のレッスンとかいろいろストップしちゃっているから、今。
- ——
- 夏に控えているというフラの卒業セレモニーの準備でお忙しい時期なんですよね。
- Sandii
- ウニキって言うんですけど、本当に大切な儀式。その場でクリアしなければならない試練もいくつかあって、私も生徒も心してかからねばならないんです。それが今年の大テーマだからね。でも予定は変更するかもしれない。
- ——
- ライヴやレッスンっていう対面で行う活動は本当に打撃を受けましたよね。
- Sandii
- でも、接触できないおかげでテレワークとかいろいろ新しいやり方を考えたり、勉強したりするのはとても素敵かな、と。どんなことが起きても、いいところを考えないと。学びは必ずあるんだから。
- ——
- サンディーさんはいつもナチュラルに前向きですねー。
- Sandii
- パッと感じたのは、今度のことは地球が放ったジャブみたいなものなんじゃないかしらってこと。
- ——
- 飛行機が飛ばなくなって空気がきれいになったとか、温暖化が抑えられているとか聞くと『そういうメリットもあるのか』とか考えちゃいますよね。
- Sandii
- わたしは自然とか環境についてもっといろいろ肌で捉えなさいというメッセージを直感した。
- ——
- “考えるな。感じろ”的に。
- Sandii
- なんだっけ、それ?
- ——
- 『燃えよドラゴン』(73年作。説明の必要がないほど有名な、ブルース・リー主演のカンフー・アクション映画)のセリフです。原語だと「Don’t Think. Feel」ですからサンディーさんの姿勢にも通じると思いますよ。
- Sandii
- 感性を研ぎ澄ますのが重要だよね。だから、こんな状態でもAIとかじゃなく人間にしかできないことって何かな?って意識したほうがいい。そうしたら前向きにやっていけるんじゃないかな。そう思うと、地球から背中を押されているみたいな気がする。
- ——
- ほうほう。感じますか、それを。
- Sandii
- あると思う。そんなわけで急に時間ができちゃったけれど、何か生活は変わった?
- ——
- いやあ、普段も家で書いたり調べたりで滅多に外出しませんから。ジムが営業自粛中なんで、人気のない時間に公園を走ったりするようになったくらいで。
- Sandii
- そっか。運動するのも一苦労なんだ。
- ——
- なんにせよ本格的な夏到来までには落ち着いていてほしいですね。サンディーさんのその頃のご予定は?
- Sandii
- 7・12にさっきのウニキ関係が完了する予定なの。(※その後、コロナを巡る諸事情の大変化により現在スケジュール調整中)。それの準備もあってこのところはずうっと古典フラに没頭していたから、ひと段落したら今度は全く別の世界に行きそうな。あるいはぶらっと、自分の中に新しい栄養や素材を溜め込む旅に出るとか。
- ——
- サンディーさんの音楽漂流記もそろそろ集大成期にさしかかったのでしょうか。
- Sandii
- そう。これまでいろいろな音楽に生命を捧げたり捧げられたりしてきたからこそ与えられた、大切な未来への種が芽吹いていると思います。
- ——
- では今年はまた、ご自分の原点から捉え直して。
- Sandii
- 原点かあ。そんな年回りなのかな…。でも私は120歳まで生きるって決めちゃったからね(笑)。まだまだ音楽の旅は続きそう。
- ——
- それは頼もしくも楽しみですね。旅という名のディグ(掘り起こし作業)で世界音楽めぐり再びですね。
- Sandii
- そういう意味だと私の音楽人生からポリネシアのスパイスは消せないでしょうね。ここまでどっぷり浸かっていると、もう自分の奥底に根付いている。それと、小さい頃から歌うことによって蓄積された気づきというものがある。それを全部一つにして、私の中でスムージーにしてオリジナルなものを作りたいなって思っています。
- ——
- 地域的にはどの辺りなんですか?
- Sandii
- ニューオリンズ、ブラジル、カリブ、アフリカ、アラブ、アジア、ケルティックなどなど…ここで全部挙げきれないな。ともかく行った全ての場所から得たエッセンスで私という人間ができていると思っているんです。
- ——
- それは壮大なお話になると思うので、この連載の中でまた地域別に伺っていくことにしましょう。
- Sandii
- はい。そしてその私のど真ん中を流れているのがポリネシアなのね。
- ——
- あ、すると例の『イーティン・プレジャー』の前に作りかけていたエキゾチック路線?
- Sandii
- あのときは途中から路線が変わって『イーティン・プレジャー』の方向にシフトしたんです。だからポリネシアのエッセンスをちらつかせたのは『パシフィカ』からになるんですよ。
Pacifica(1991年 Toshiba EMI)
大人と子どもとニュー・ウェイヴ
- ——
- では『パシフィカ』が気持ちの転機になって、ハワイのルーツに戻られた?
- Sandii
- うーん、ていうか、サンセッツから続いてきたキャリアがひと段落したことで風景がスッとシンプルに見えたんじゃないかしら。それで自然と原点が浮かんできたのかな。その時はそんなに意識していなかったけれど、今考えると残された貴重なサンセット・タイムを自分軸で生きてもいいと思うようになって。それまでは長い間、久保田さんとの軸だったのが、ハワイ回帰で自分の元の立ち位置が見えて、根元にずっと息づいていた自分がムクムクと頭をもたげてきたみたい。
Sandii’s Hawai‘i (1996年 Sushi Records)
サンディー初のセルフ・プロデュース・アルバム
慣れ親しんだ優しいハワイの風に抱かれて・・・
- ——
- なるほど。そう言えば、サンディーさんの原点がハワイにあったっていうことを、サンセッツを聴いていた当時はこっちも全く忘れていました。
- Sandii
- 音楽的にニュー・ウェイヴのときも精神的なホームはフラとハワイの風景だったんだけど、表には出していなかったからね。
- ——
- こうやってキャリアを振り返ると、サンディーさんには“南方系のコスモポリタン”みたいな不思議なイメージもありますね。英語も日本語もご堪能で。
- Sandii
- でも自分では英語・日本語は両方ネイティヴではないっていうことで、ちょっと腰が引けた感じを持っちゃうところもあるんですよ。わたし、魂が嬢ちゃん・婆ちゃんなんで。
- ——
- “嬢ちゃん・婆ちゃん”って何ですか?
- Sandii
- 素直で未熟な子どもと老成した物分かりのいいおばあちゃんの自分がいて、中間のちゃんと主張できる言葉を持った大人がいない感じかな。それと同じで、マザー・タング(母国語)はこれですっていう確信が持てないっていう。この二つは優越感とコンプレックスが混じった感じなんだけれど。それと関連しているのかな…変な話、自分も二人居るようで、やりたいことへの意志がはっきりした自分と、Posh(上流階級的・上から的)な人がいるとちょっと気後れする自分の両方が共存してる感じ?
- ——
- あー、それってわかります。意志は強いけど根性は弱いところがあるっていう。
- Sandii
- でしょー?強く断言されちゃうと“あれ?自分の方が間違えているのかな”って思っちゃうことってあるじゃない。
- ——
- 上から自信たっぷりに振る舞う人がいると、つい言う通りにして都合よく利用されちゃうとか自分も経験ありますよ。自我がヘナチョコなんで、自分からそういう人に近づいちゃう傾向があって。
- Sandii
- おお、同じ惑星の人だ!じゃあこんな時期だから、エア握手しましょう!(と言って、エアでシェイクハンド)
- ——
- ああ、これは光栄です。
- Sandii
- 私もそれ、よくあったからねー。
- ——
- 思わぬところで共通点が。すごい微妙な気分で嬉しいです、今(笑)
- Sandii
- そうよね(笑)。共通点が“ヘナチョコ”じゃあね。
- ——
- でもまあ、話を戻すと、それはそういう、複数のネイティヴみたいな感覚はニュー・ウェイヴっぽい分析感覚というか、サンセッツの音楽にあった世界の音楽を組み合わせるやり方にもつながるんじゃないでしょうか。
- Sandii
- パンクが出てきたときの、正しい子供が懸命に叫んでいるようなあのエネルギーには感動して刺激を受けたんですよ。だから基本同じ人種だと思っていたけど、サンセッツはアジア、ニューオリンズ、ケルトとか、いろんな世界のグルーヴを知っていたから。
- ——
- やっぱり十代で初めて楽器持って音楽を始めた子供たちとは経験値が違う。
- Sandii
- そう。それに私の中で自分自身や自分のグループを見るときに、音楽性のほかに見た目とか内部構造とか、すべての要素を三面図みたいにいろんな角度から見て理解したいと思う性癖があるんです。
- ——
- そういうふうに、主観的な自信と自分を客観視する視点が共存しているのが優れた表現者だと思います。そういう意味では、サンセッツは子供みたいな好奇心で世界中の音楽に夢中になりながら、老成した冷静な分析でそれらをブレンドして取り入れていたユニークなバンドだったんですね。
- Sandii
- 子どもと大人が同居していたのかしら。そんな変わったアプローチだったから、最初に所属していたレコード会社のアルファは私たちのこと、わけわかんなかったところがあるのかもね。彼らは何と言ってもYMO、そして吉田美奈子さん、カシオペアをプライオリティにしていたから。
- ——
- あ、そういうヒエラルキーがあったんだ。
- Sandii
- そう。私たちはオマケ。細野さんが連れてきたから。泥臭い男たちとどこの国の人だかわからない女性ヴォーカルがいる(笑)。あ、でもね、川添(象郎)さんには大変よくしていただいたんですよ。
- ——
- 当時のアルファの重役の方。今も有名な大プロデューサーですね。きっと川添さんもサンディーさんの中にスペシャリティを見出されたんでしょうね。
- Sandii
- 『スター・マテリアルだと信じているから』と言って励ましていただいたり、創作に関するいろいろな援助をしていただいてありがたかったです。
- ——
- アルファはいっぷう変わったユニークな輝きを持つアーティストを売るのが得意みたいなところがありましたね。
- Sandii
- だからアルファはキラキラしていたんじゃないかな。でも黄金時代があればなくなる時が来る。それで長くは続かなかったのかなーって思うことはあります。自分もあの優雅なときめきを味わった一人だから。
- ——
- サンディーさんは78年の終わりくらいからアルファで細野さんとやっていらしたんですよね。その後もYMO関連のアルバムによく参加されて。
- Sandii
- 記憶だと、細野さんがあの頃に女性歌手を探していたのかな。『B-52’sの魅力がわかる子で英語で歌えて、民謡こぶしまで操れる。そんな人居ないかなあ…あ、ここに居た』みたいな感じで声をかけていただいたという印象です。また社員スタッフの方もそれに乗ってくれて。
- ——
- 何人かの元アルファ社員の方たちに取材させていただきましたけれど、根っからの音楽好きというか、ユニークな価値観を持った方が多かったです。
- Sandii
- 私が知っている頃のアルファ・レコードは若い社員が多くて、みんな音楽好きでピュアにやっていた。わざわざ苦労を買うように安い給料でもニコニコしていつでも仕事していた。そんな印象。
- ——
- 音楽主義のレコード会社という感じですよね。さて、話は尽きませんがそろそろ締めましょうか。
- Sandii
- はい。
- ——
- では今回はコロナが流行する中、最後になにかファンの皆さんにメッセージでもあればお願いいたします。
- Sandii
- ええっ?そんな急に(笑)
- ——
- すみません。いつもいつも思いつきで(笑)。ではまず、冒頭で話が出た7月の卒業に向けての決意からお願いします。
- Sandii
- それに関しては、弟子は先生を超えなくてはいけない、ということに尽きます。Please be brighter than me というのが本当の愛。みなさん、その心構えで行きましょう。
- ——
- あとは世の中全般へのお言葉を。あるいはサンディーの大予言!とか。
- Sandii
- 何かTさんヤケになっているみたいだけど(笑)、まあじゃあ勢いで、普段からやっている星読みでお話ししましょう。……はい、世の中変わると思います。
- ——
- おおっ!それはどのように?
- Sandii
- どうしてもぬぐいきれない直感なんですけれど、世界の流れや人の波動が今年の暮れくらいから本格的にシフトします。でももうすでにその流れはきていますけど。今とてつもなく長い期間続いてきた土の星座からの支配が、風の星座へと移るから、価値観も物から精神へ、愛という名の知性とコミュニケーションが軸になる時代に変わるんじゃないかと感じています。
- ——
- たしかに今回のこれで、世の中の価値観もだいぶ変わりそうですね。
- Sandii
- そして、どんな時代になっても音楽は必要、ご飯と同じ。音楽が開ける風穴は隙間くらいの大きさかもしれないけれど、新しいスペースが作れるはず。それに寄り添ってわたしも何か素敵な輝きを作品として誕生させたいなと思います。
- ——
- キャリアから考えても、集大成の証を音楽で形にしたいところですよね。
- Sandii
- そうね。過去を集大成しつつ新しい音楽も作っていきたい。
- ——
- それは楽しみです。では来年はワクワクするようなことが起きるよう、今年の残り、後半も頑張りたいですね。
- Sandii
- はい。じゃあみなさんも私と一緒に自分の素直な心にチューニングしながら、明るい人生へと心の舵取りをするライフスキルを手に入れて少しでも前へ!Imua!
※Imua :ハワイ語で前進という意味
編著に『NICE AGE YMOとその時代 1978-1984』(シンコーミュージック・エンターテイメント)、編集担当コミック単行本に『ディア・ダイアリー』(多田由美)など。最新編集担当本は『よりぬきヒロシさん 気まずいの以外全部出し』(田丸浩史)。サンディーが80年代中頃まで在籍したアルファ・レコードについての読み物『アルファの宴』を『レコード・コレクターズ』誌で連載していた。